当事務所のクライアントさんに、一級建築士とのトラブルが生じてしまいました。
第2号店を出店するため、店舗物件と賃貸借契約を交わし、店舗の大規模改装をS建築士に依頼していたのですが、設計図を作成し終えたところで、一切の連絡が取れなくなりました。
電話に出ない、メールに返信しない、LINEに既読がつかない。
仕方なくS建築士に契約を破棄する旨をメール連絡し、別の設計事務所に依頼し直したものの、新規開店が少なくとも3か月は遅れることになり、その期間の家賃だけでなく、見込みの売上も立たなくなりました。
後から分かったことなのですが、S建築士は他でも同じようなことをしていたそうで、別の被害者の方(Hさん)が裁判を起こし、被害総額を支払うよう判決を受けているのだとか。
それなのに、Hさんに対しても未だに一切の連絡がなく、当然にお金も支払われず。HさんはS建築士の会社の口座を差し押さえしたらしのですが、残高はゼロだったとか。
S建築士の自宅は借家で、加えて借金を負っているようだ、との話まで飛び込んできました。
これでは、S建築士に対して裁判を起こしても金銭が支払われる可能性は低く、弁護士費用や諸々の手間を考えると、余計なコストとストレスが係るばかりとも読み取れます。
仮に金銭の賠償がされたとしても、返ってくる金額と諸々の金銭的・肉体的・精神的な労力を天秤にかけると、裁判を起こすのが得策とも思えないのも事実。
そうかと言って、このまま黙って諦めるのも違う話だし、こちらの考えや思いは相手に伝えないと、とも思えます。
伝えて理解できるような人ならば、最初からこのような問題は起こさないのでしょうが、それでも、伝えるべきは伝えないと。
詳細は書けませんが、お金以外にも、S建築士には注文を付けたいことがいくつかあります。
お金以外の点についても約束を取り付けて、それを守らせたい。
はてさて、こんな状態になった時に、S建築士に対して、どういう対処の仕方があるのか。
知り合いの弁護士の事務所に、お知恵を拝借しに行ってみました。
弁護士には、以下の旨を伝えました。
・ 裁判以外の方法を望んでいる
・ とにかく一度、S建築士と話をして、こちらの要望(お金、それ以外のこと)を伝えたい。
・ S建築士と約束をとりつけ、それを守らせたい
「そんなこと、出来るのだろうか?」と思いながら、聞くだけ聞いてみよう、と思って出かけたのですが、「なるほど」と参考になる話が聞けたので、紹介したいと思います。(前置きがやたらと長くなりましたが)
◆ S建築士が応じるようであれば、弁護士立会いの下、弁護士会館等の場所で両者話し合いの場所を設ける
◆ 予め要望書をまとめておき、それを相手に伝える
◆ その場でお互いの合意が取れたら、その内容を公正証書にする
「なんだ、そんなことか」と思われるかもしれませんが、争いごとに慣れないシロウトには、”そんなこと” も思いつかないもの。
「そういうやり方もあるのか!」と、私個人はとても参考になりました。
財政的に一括で損害の支払いができないようであれば、今後5年に渡って毎月2万円づつ返済するように、とか、現実的な方法で支払いを約束させることもできるよう思います。
この方法の課題は
● 相手が話し合いの場に出てくるか
● 弁護士からの連絡で、話し合いの場には出てきても、公正証書作成のためにはクライアントさんとS建築士と二人で公証役場に赴かないといけない(ここで来ない可能性アリ)
● 公正証書の強制力は金銭に対してのみ有効で、それ以外の約束事を強制はできない
だそうです。
世の中、契約不履行に伴うトラブルは、少なくはないのだろうと思います。
被害金額が数百万、数千万円ならともかく、数十万~百万規模だと、諸コストだけでなく時間的精神的犠牲も大きくて、ほとんどの人が泣き寝入りしてしまうのが実態なのではないでしょうか。
小規模事業者さんにとっては、受けた損害額は、決して決して小さな金額ではないのですけれど。
弁護士の先生も、金額規模が小さいと報酬の観点から、それほどの時間をかけられないという現実もあります。
私は知合いの弁護士の好意に甘えて無料でいろいろ教えてもらったのですが、通常なら、そうは行きません。
要点のみまとめると上記のようになりましたが、弁護士の先生には2時間近く、こちらの話を聞いていただきました。正しいアドバイスを出すためには、きちんと実情を把握する必要があり、そのためには2時間近くの時間はかかるものだと思います。
起こってしまったトラブルは受け止めるしかありませんが、とにかくヘンな業者と係わらないよう、予めできる限りの対応をとる姿勢も大切なことだと思います。
・ 業者は相手を慎重に選ぶこと。
・ その業界の特性やよくあるトラブル事例等も、できる限り予め調べておくこと。
・ 相見積りは必ずとること(それにより、業界についても知ることができます)
株主の目が光る上場会社の場合は、与信審査を専門に行う人員がいる程です。
小規模会社は社長が全てをやらないといけなかったりするので、忙しいとつい手間を惜しみがちですが、大きな取引の際は、事前の慎重さが結局は自分を助けることにつながるのだろうと思います。