財務分析

■ 財務分析の意義

P会社の成長・発展に、定期的な経営分析は不可欠です。
Plan ⇒ Do ⇒ Check ⇒ Action の所謂PDCAサイクルにおいて、Checkの際は、財務指標分析を用いることが効果的です。

財務分析項目リスト

 ➡ 財務分析について
 ➡ 財務指標
 ➡ 財務指標活用のポイント

財務分析について

財務分析とは

財務分析は、よく健康診断に例えられます。

会社の状態を数字で可視化し、問題点がないかを確認する。
問題点があれば、会社を健全な状態に保つべく対策を講じる。
対策の成果をまた数字で確認し、問題点が解決されていなければ新たな策を講じる。

以前検出された問題が解決されても、また新たな問題が見つかることもあるでしょう。

確認と対策を繰り返すことで会社を健全な状態に保ち、そして成長・発展する努力をすること。
こうした一連の手続が財務分析です。

健康診断に期限はないように、財務分析にも期限はありません。
会社が存続する限り、成長のため、会社は定期的な診断を欠かすことはできません。

財務分析と会計データ

財務分析にあたり、最も有用な情報は決算書データ(会計データ)になります。

会社の活動は、最後はすべて会計データに落ちてきます。
よって決算書の会計数値は会社の実態を映し出す鏡と言えます。

実際、大きく成長する会社の経営者は会計の重要性をよく理解しています。
京セラ創業者の稲盛和夫氏で、自著『稲盛和夫の実学 経営と会計』の中で、こう述べています。

私は二十七歳の時に京セラを創業し、ゼロから経営を学んでいく過程で、会計は「現代経営の中枢」をなすものであると考えるようになった。
企業を長期的に発展させるためには、企業活動の実態が正確に把握されなければならないことに気づいたのである。」

会計データは、全ての会社が持っている情報になります。
会計データが万能という訳ではありませんが、身近にあり、すぐに活用できる情報ですので、全ての会社に最も有用な経営分析ツールと言うことができます。

財務指標とコックピット


経営分析における会計データは、しばしば操縦席のコックピットに例えられます。

コックピットには様々な情報が表示され、パイロットはこれら複数の指標から状況を判断し、適切な方向に機体と乗客を安全に導いていきます。

会計データは、そのままでは判断が難しいものの、指標にすることで経営状況がクリアになります

経営指標には様々な指標があり、会社が置かれる環境や事業の特性、経営戦略等によって適した経営指標は異なってきます。
自社の特性と目指すべき方向性に合った経営指標を選択することが重要です。

「財務分析項目リスト」に戻る

財務指標

財務指標には様々な指標があります。
ここでは、一般的に用いられる代表的な財務指標を紹介します。

収益性分析

指標定義式意義等
総資本利益率
 ・総資本営業利益率(%)営業利益÷総資本×100会社の全資産をかけてどれだけ利益を生み出したかを示す指標。この指標が低すぎる場合は会社は無駄な資産を抱えている可能性がある。
※総資本=総資産
 ・総資本経常利益率(%)経常利益÷総資本×100
 ・総資本当期(純)利益率(%)当期(純)利益÷総資本×100
売上高利益率
 ・売上高総利益率(%)総利益÷売上高×100売上に対していくら利益を生み出したかを示す指標。低い場合や前年より悪化した場合等、コスト内容を見直し利益率改善に努めることが求められる。
 ・売上高営業利益率(%)営業利益÷売上高×100
 ・売上高経常利益率(%)経常利益÷売上高×100
 ・売上高当期(純)利益率(%)当期(純)利益÷売上高×100
回転率
 ・総資本回転率(%)売上高÷総資本×100投下した総資本や固定資産がどれだけ売上に貢献しているかを見る指標。少ない投資で高い売上をあげる視点が経営には求められる。
※総資本=総資産
 ・固定資産回転率(%)売上高÷固定資産×100
 ・有形固定資産回転率(%)売上高÷有形固定資産×100

安全性分析

指標定義式意義等
当座比率(%)当座資産÷当座負債×100短期的な支払能力を測る指標。当座比率の方が流動比率より短期的。この比率が高い程、安全性が高い。
流動比率(%)流動資産÷流動負債×100
売上債権回転期間(カ月)売上債権÷1か月売上高売上債権の回収期間。短いほど資金繰りはよい。
たな卸資産回転期間(カ月)たな卸資産÷1か月売上高たな卸資産の在庫期間。短いほど無駄な在庫が少なく資金繰りもよくなる。
借入金月商倍率(カ月)借入金÷1か月売上高金融機関が融資を判断する際に参考にする指標。指標数値が高いほど企業の資金繰りは厳しく、金融機関からは借入金返済能力は低いと見做される。
*借入金=有利子負債(借入金、社債、割引手形)
借入金依存度(%)借入金÷総資本×100
固定長期適合率(%)固定資産÷(固定負債+自己資本)×100固定資産を固定負債と自己資本でどれだけまかなえているかを示す指標。数値が高い場合は過剰な設備投資等の可能性もある。
自己資本比率(%)自己資本÷総資本×100資本の安定性を測る指標。自己資本には利子返済義務(コスト負担)がないため、自己資本比率は高いほど、負債比率は低いほど望ましい。
負債比率(%)負債÷自己資本×100

生産性分析

指標定義式意義等
一人あたり売上高売上高÷従業員数指標数値が高いほど従業員ひとりあたりの生産性は高い。
*付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費
*加工高=売上高-(材料費+外注加工費+製品・商品仕入高) 
一人あたり売上総利益売上総利益÷従業員数
一人あたり営業利益売上営業利益÷従業員数
一人あたり加工高加工高÷従業員数
一人あたり付加価値額付加価値額÷従業員数
一人あたり人件費人件費÷従業員数人件費負担を測る指標。一人あたり売上高、一人あたり付加価値額とのバランスが大切。
労働分配率(%)人件費÷付加価値額×100

成長性分析

指標定義式意義等
売上高伸び率(%)(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高×100過去5年間の推移を並べ、会社の状況(成長軌道に乗っているか、低迷しているか)を具体的に数値で把握します。
営業利益伸び率(%)(当期営業利益-前期営業利益)÷前期営業利益×100
経常利益伸び率(%)(当期経常利益-前期経常利益)÷前期経常利益×100

「財務分析項目リスト」に戻る

財務指標活用のポイント

財務指標の活用方法

財務指標の選択

経営指標はたくさんあり、中には自社には意味を持たない指標もあります。
自社に適切な経営指標を選択することが大切です。

選択する経営指標の数に決まりはありませんが、たくさんあると混乱する場合があります。

最初は6~8指標に絞ってみて、先ずは算出し、指標数値を読んでみること。
慣れてきたら、指標を増やす、あるいは他の指標に置き換える等して、自社に最適の指標を見つけます。

年度推移を見る

単年度の経営指標だけを見るより、3年~5年の推移で見る方が、会社の状態がよく見えます。

同業他社と比較する

会社の状態が良い状態にあるのか、それとも改善の余地があるのかを判断するのに、同業他社の経営指標数値と比較する方法が最も有効です。
同業他社との比較は、できるだけ自社に近い規模(売上高、従業員数等)の会社である方が参考になります。

上場会社の場合、四半期報告書や有価証券報告書が開示されますので、自社に近い会社を探し、経営指標を自分で算出します。
経営指標数は限られていますが、会社四季報等にも出ていますので、そちらを参考にする方法もあります。

非上場会社の場合、ほとんの会社が情報が開示をしていないため、他社の経営指標の参照が困難ですが、会社四季報の未上場会社版や帝国データバンク等を利用するのはひとつの方法です。

中小企業については、中小企業庁から 『中小企業実態調査』 が情報公開されています。(ただし決算書の集計値のみ)

経営指標活用の体制

経営分析の第一歩は、やってみることから。
先ずは現在手元にある決算データで経営指標を算出してみること。

人間の感覚は、意外と当てにならないことがあります。
自社の状況を数値化することで、思い込んでいたことが誤解だったり、気づかなかった点が浮かび上がってきたりします。

債権の回収が遅くないか、売上が増えているのに利益が伸びない原因は何か、従業員一人当たりの生産性が減っていないか、等々。

経営分析に取り組む過程で、同時に以下に示すような改善に取り組むことで、更に経営分析を会社の成長・発展の有効なツールとして活用することができるようになります。

経営戦略を明確にする

経営指標には様々な指標があり、会社が置かれる環境や事業の特性、経営戦略等によって適した経営指標は異なってきます。

経営指標は、会社を目指す方向に導くための羅針盤です。
自社の特性と目指すべき方向性に合った経営指標を選択することが重要です。

経営指標を活かすためには、会社が目指すべき方向性(経営戦略)をあらかじめ明確にしておくこと がとても大切です。

正しい会計数値を作成する1

経営指標は会社を正しい方向に導くためのインジケーターです。
会計数値が100%正しいものでなければ、経営指標は間違った内容を伝えてしまいます。

会計データの精度を高めるためには、自社に経理・財務の担当者/責任者を置くことが重要です。

リソースが足りなければ、税理士や入力代行業者に外注するのも一つの方法です。
ただし、第三者に任せっぱなしにしてはいけません。

会計データの作成は、自社の取引を仕訳等の会計取引に置き換える作業です。
自社の取引を100%理解できるのは、会社の人間だけです。

正しい会計数値を作成する

人間が行うことには、ミスが伴います。
処理を間違えないための一番の方法は、第三者のチェック機能(内部統制)を働かせることです。
不正の防止にもつながります。

担当者ひとりに処理を任せっぱなしに、していませんか?

会社の規模が小さく従業員数が少ない場合は難しいですが、ある程度会社の規模が大きい場合、担当者に任せっきりにしない体制づくり(規程や業務ルールの整備、役割分担の定義等)が大切になってきます。

上場を目指すような場合、内部統制や社内規程等は重要なチェックポイントにもなってきます。

決算を早期化する

経営指標は算出するだけでは意味がなく、経営課題を明らかにし、素早く対策を講じて初めて意味を持ちます。

問題は早めに対処するほど、早く解決します。
会社の月次決算が締るのに数か月かかる場合、それだけ対策が遅れ、解決にも時間がかかることになります。

迅速に会計処理が行える体制づくりには、会計システムの構築と内部統制の整備を同時に行うことが最も効果的です。

ですが、そこまで大がかりにしなくても、現在行われている処理の無駄をなくすこと、従業員の会計意識を高める(処理の迅速化には従業員の協力が不可欠)こと、これだけでも、大きな成果が期待できます。

「財務分析項目リスト」に戻る

当事務所では、財務分析診断を実施しています。
財務指標数値を算出し、同業他社と比較する等して改善課題を抽出します。
お気軽にご相談下さい。